豪州の連邦裁判所は16日、テニスの世界ランキング1位、ノバク・ジョコビッチ(34、セルビア)からの異議申し立てを却下、アレックス・ホーク移民相が発令した入国ビザ取り消しを支持する判断を下した。17日から始まる全豪オープンに出場できなくなったジョコビッチは「非常に失望している」との声明を発表後、同日メルボルン発ドバイ行きのエミレーツ航空EK409便で豪州を離れた。この10日間、全世界の注目を集めていたジョコビッチ騒動の衝撃的な結末は様々な波紋を広げた。
「判決には非常に失望している」と声明
ジョコビッチ騒動は全豪OPの開幕前日に衝撃の結末を迎えた。ワクチン接種免除の書類不備を理由に6日に入国を拒否されたジョコビッチは連邦裁判所に異議を申し立て、一度は一転入国を認められた。だが、再び権限を持つ持つホーク移民相に「国民の健康と秩序を守ることが公共の利益」と入国ビザを取り消され、ジョコビッチも再度、連邦裁判所に異議を申し立てたが、今度は、その訴えが認められることはなかった。
国外退去が決定し4連覇と4大大会21度目のVの偉業がかかっていた全豪OP出場が開幕前日に叶わなくなったジョコビッチは「判決には非常に失望している」とする一方で「判決を尊重し、国外への出国に関して関係当局に協力する」との声明を発表。厳重に警備された中、メルボルン空港からエミレーツ航空でドバイへ向けて出発した。
テニス界のトップスターが、ワクチン未接種のため強制退去を命じられたニュースは世界へ衝撃を与えた。
「ルールはルールだ」とジョコビッチ選手の入国拒否について厳しい態度で臨んだモリソン豪首相。背後には、コロナ対策の厳しい行動規制による国民の不満の高まりと与党支持率の低下があります。豪州では5月下旬までに総選挙が行われます。ある世論調査では、回答者の71%がジョコビッチ選手の豪州滞在を認めるべきではないと回答。豪国民は身勝手な振る舞いの同選手に失望し、一流プレーヤーだからと特別扱いすることに強く反発しています。政府も国内世論に従う対応に徹しています。
激怒したのは、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領だ。
英ガーディアン、英BBCによるとベオグラードで記者団の取材を受けたヴチッチ大統領は、豪州政府の対応と、裁判所の決定を強烈に非難した。
「裁判所の決定はスキャンダラスだ。わずか数日の間に2つの完全に矛盾した裁判所の決定があるとは信じられない。最初からワクチンの予防接種を受けていない選手は入れないと言うべきだったが、彼らはそれを言わなかった。彼は10日間、豪州政府から嫌がらせを受け、虐待された。大量殺人犯のように扱われた。なぜ(豪州政府が)魔女狩りのようなことをしたのか理解できない。もしセルビアから来ていなかったら違った扱いを受けただろう」
ヴチッチ大統領は、判決が出たあとに、ジョコビッチと電話で話をして激励したという。
「彼らは世界最高の選手に恥をかかせたかったのかもしれないが、彼は恥をかいていない。恥をかいたのは魔女狩りをした組織だ」
テニス界にも波紋は広がった。
セルビアテニス協会は「茶番は終わった」「大きな失望」と決定を批判。男子プロテニス協会(ATP)は「深く残念な一連の出来事が終わった。公衆衛生に関する当局の決定は尊重されるべきだが、ノバクは私たちのスポーツの最大のチャンピオンの一人であり、全豪オープンの欠場は大会の損失」とした上でジョコビッチに「元気になりコートに戻ってくることを楽しみにしている」とエールを送った。
英BBCによると全豪OP前哨戦のシドニー国際で決勝進出を果たしたベテランのアンディ・マリー(英)は、「トップ選手全員がプレーすることで大会は盛り上がるので(国外退去は)大会にとっては素晴らしいことではない。ノバクは12歳の時から知っている尊敬して競ってきた選手。この状況はすべての関係者にとって良くないことだった。最終的に極端な形となり、とんでもない混乱となった。今後、他の大会でこんな状況にならず、こんなことが起こらないことを願っている。ノバクのためにも、このようなことは望んでいない、テニス界にも起きてほしくない。願わくば今、ここで収束してほしい」とコメント。事態の収束を求めた。
英ガーディアン紙によると「ほとんどの選手たちは判決後、ジョコビッチの国外退去についてソーシャルメディアで語らない選択をした」そうだが、ツイッターにてコメントを投稿している選手もいて、ジョン・イスナー(米)は、国外退去の決定を批判してジョコビッチを援護した。
「ノバクは常に”格”を持っているし、これからもそうなるだろう。彼は私の絶対的なレジェンドであり、世界中の何百万人もの人々に多大な利益をもたらした。これ(国外退去の判断)は正しくない」
全豪OPに出場する24歳のライリー・オペルカ(米)もツイッターでジョコビッチとの出会いの話を書き激励した。
「ノバクは2008年にシンシナティマスターズの練習場に1時間も余分に居残って、すべての少年たちのボールにサインした。 私もその一人。 彼はスポーツのためにたくさんの素晴らしいことをしてきた」
豪州のスターであるニック・キリオスは、ここまで豪州政府のジョコビッチへの対応を批判し続けてきたが、この日の判決を受けてツイッターに「頭を抱える」絵文字をひとつ載せて心境を示した。
欧州をカバーしているユーロスポーツは、グランドスラム7度優勝のマッツ・ビランデル氏の見解をたっぷりと紹介した。
同氏は、「(連邦裁判所の国外退去の判断に)驚き衝撃を受けた。ノバクが(異議申し立てをして)トライしたことは称賛したいが、彼は、同時にワクチン接種義務の規則によって何らかの問題が起きることを理解していたはず。この判決はフェアだったと思う。世界中で何百万という人々が新型コロナにより亡くなっており、豪州は、完全なロックダウンに入ることが決められ、人々は精神的にも身体的にも苦しんできている」と連邦裁判所の決定を支持した。
そして「判事の決断は、我々のスポーツの歴史をもしかしたら変えるかもしれない」と、今後の見通しについて語った。
同メディアによると、フランスのロクサナ・マラシネアヌ・スポーツ担当大臣は、「ジョコビッチはワクチン接種の状況にかかわらず全仏OPでプレーできるだろう」と発言しており、全仏OPに出場できる可能性は高いが、「全英と全米の規則には(出場に)疑念が残る」という。またクレーコートの全仏OPは2016年、2021年と2度優勝しているが、4大大会で最も不得意としている大会だ。
ビランデル氏は、その上で、ジョコビッチの“今後”をこう指摘した。
「他の選手たちはノバクに勝てると考えていると思う。ノバクの精神状態が今どのようなものかは想像できないが、彼は戦士だ。家に戻りトレーニングをして準備を進めるだろう。最大の疑問は、これからも彼が世界中を周ることができるのかということ。どれだけ多くの大会でプレーが許され、そして最終的には彼がワクチン接種を受けるのかどうか。新しい世界ランキング1位の選手が出てくることも考えられる。彼のキャリアは危険にさらされていて、本当に望まないことをしなければならないかもしれない」
また豪州の移民法は、国外退去を命じた人物には、むこう3年間、入国ビザを発行しないと定めており、ジョコビッチが今年だけでなく来年、再来年の全豪OPに出場できない可能性があるという。
ただこれに関しては豪メディアのnews.com.auは、「彼を出場させるための特例はある。豪州の国益に影響するやむを得ない事情、豪州市民や永住者の利害に関係する特別な事情を含めた特定の状況の中で免除される」と指摘。
ジョコビッチが豪政府に嘆願すれば、3年間の入国禁止が免除される可能性があり、元移民局の副秘書官の話として「大臣はそれを許可するだろう」という見通しも紹介されていた。
ここから先もジョコビッチの動向に注目が集まりそうだ。

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