波乱に満ちた米大統領選を制し、新大統領に就任したジョー・バイデン氏。オバマ政権時代に副大統領を8年間務めていたとはいえ、派手な言動で発信力があるトランプ前大統領とは対照的に、その人となりや政治的な立ち位置、実績はあまり知られていない。どのような人なのだろうか。
【略歴】
・1942年生まれ
・米ペンシルベニア州出身
・弁護士資格を持つ
・29歳の若さで上院議員(デラウェア州)に選出。以後、副大統領就任まで36年間に渡り上院議員。
【プライベート】
・幼いころは吃音(きつおん)に悩まされた。
・上院議員初当選の直後に事故で妻と娘を亡くす。その後、現在のジル夫人と再婚。
“ワシントン政治”を熟知
バイデン氏の政治的スタンスを教えてください。
ワシントンDCでの経験が長くて、上院議員を30年以上やって、副大統領もやっています。上院時代には外交委員長も務めています。そういう意味ではインサイダーです。その故にワシントン政治を熟知していると言えますし、トランプ大統領とは随分違うところです。一方で、「共和党とも話ができる政治家」でもあり、大統領を務めるには適材だと思います。
同じ民主党でも、候補者争いで戦ったバーニー・サンダース上院議員とは主義主張が異なります。
バイデン氏は中道派です。そのため、本質的にはサンダース氏のような急進左派とは折り合えないところがありますが、今回はとりあえず反トランプということで便宜的に結束は演出できました。ただ、選挙が終わったので、これから党内で内紛が出てくる可能性はあると思います。
“人の痛み”が分かる苦労人
どのような副大統領だったのでしょうか。
オバマ元大統領がバイデン氏を副大統領にした理由としては、1つにはワシントンでの政治経験が長いことが挙げられます。オバマ氏はあまりその経験がないため、それを補完するという意味です。若いオバマ氏と比べてかなりの経験、特に外交経験があるというのが大きかった。あとは白人であるということなど、そのあたりのバランスを考えて選んだと言われています。
しかし、オバマ氏の側近は「そういう理由もあるけど、一番の理由は人間としての共感力だ」と話しています。バイデン氏自身、お父さんが失業して、ペンシルベニア州からデラウェア州に引っ越さざるを得なかった。決していわゆる世襲政治家ではなく、苦労人なのです。
さらに言えば、家族を失ったりとか、吃音で苦労したりということもあり、華々しいキャリアを持ちながらも、常にプライベートな部分で苦労してきた人なのです。その分やはり人の痛みが分かる、と。そこにオバマ氏はとても惹かれて選んだという背景があります。
それらの要素が今後、重要になってくると思います。バイデン氏はあまり民主党が共和党がとか、保守だリベラルだ、などと何か記号的に相手をとらえていくタイプではありません。もう少し人間的な部分で相手と接する。大統領になってもそういうことができるのであれば、いまのアメリカの舵を取るには合っている人だという気がします。
不安要因は年齢
強みがある一方で、弱みはどういうところでしょうか。
長年ワシントンにいて、ある程度妥協の術に長けた分だけ、あまりトランプ前大統領のような、良くも悪くも破壊力みたいなものはありません。
あとは、やはり年齢ではないでしょうか。1期を全うしたとしても、そのあと再選するとなるともう82歳です。そうなると体力的な面などから、必然的に制限はかかってくるでしょう。
バイデン氏の最初の仕事は?
米国社会の分断があらわになったトランプ政権が終わりました。バイデン氏の最初の仕事は何でしょうか。
社会の分断は構造的なものでもあるため、バイデン氏1人にできることはかなり限られているかもしれません。しかし、トランプ前大統領のように分断や対立を確信犯的に煽(あお)るようなことをやらないだけでも社会の雰囲気というのはずいぶん変わってくると思います。
また、いまはただでさえ党派対立が激しくなっている局面です。そのため、あまり党派色が強いアジェンダを最初から出すことはないのではないでしょうか。まずはコロナ対策や景気の回復・立て直しなど国民全員の関心が高い課題で、ある程度実績を作っていくことが重要です。それは本質的に分断を解消するということではなく、表面的な融和にしかならないかも知れませんが、いきなり構造から変えるというのも難しい話なので、まずはそれらのテーマを1、2年かけてやっていくっていうことだと思います。
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